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水戸地方裁判所 昭和36年(行)9号 判決

原告 草間茂

被告 茨城県公安委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三六年四月二七日付をもつて原告に対しなした自動車運転免許の取消処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は、昭和三二年七月頃被告茨城県公安委員会から旧大型自動車第一種運転免許(免許番号茨城県第二九八七八号)を受け、爾来自動車運転の業務に従事していた。

二、ところが、被告は昭和三六年四月二七日原告に対し、原告が同年二月二一日茨城県結城郡千代川村にて交通事故を惹起し人を死亡させた事実が道路交通法第一〇三条第二項第二号同法施行令第三八条第二号ロに定める場合に該当するとして、右運転免許の取消処分をなし、その取消通知書は同年五月三日原告に交付された。

三、しかしながら、右取消処分は次のような重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。

(一)、原告は道路交通法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号ロにいう運転免許の取消基準に該当する違反行為を犯したことはないから、被告が右法案を適用して原告の運転免許の取消処分をしたのは違法である。

もつとも、原告は、同年二月二一日午前一一時五〇分頃、大型貨物自動車(茨一す―四二一三号)を運転し、同県結城郡石下町方面から下妻市方面に向け県道(巾員七、四米)の右側を時速約三七粁の速度で進行し同郡千代川村大字羽子四四番地先路上に差しかかつた際、たまたま右手農道(巾員約二米)から自転車に乗つて県道上に進出して来る平塚てる(当時四四年)を右斜前方約一一米の地点に発見したが、原告は、右平塚において一時停車してくれるものと考え、減速その他避譲の措置を講ずることなく漫然同一速度で道路右側の進行を継続したところ、自動車の右側後輪フエンダーを自転車のハンドルに衝突させ同女を自転車もろとも路上にはね飛ばして肝臓破裂等の傷害を与え、その結果翌二二日同女を死亡させるに至る事故を起したことはある。

しかし、原告が右事故に際し、自動車等の運転に関し、道路交通法の規定に違反したのは、県道の右側通行を継続した点、すなわち同法第一七条の通行区分の規定に対する違反のみであつて、同法第七〇条の安全運転その他の規定に違反したのではないから、原告の前記行為は同法施行令第二号ロ、第一号ハにいう「法第一一九条第一項第一号、第二号、第五号、第九号又は第一五号の違反行為」のいずれにも該当しない。したがつて被告が右事故を理由に原告に対し前記法条を適用して運転免許を取消したのは違法である。

仮りに原告の前記行為が同法施行令第三八条第一号ハにいう「法第一一九条第一項第一号、第二号、第五号、第九号又は第一五号の違反行為」のいずれかに該当するとしても、同条第二号ロにいう「前号ハに掲げる違反行為」とは、同条第一号ハの後段の「法第一一九条第一項第一号、第二号、第五号、第九号又は第一五号の違反行為」を指すのみならず、同条第一号ハの前段における「その者が過去一年以内に一回以上免許の効力の停止を受けた者である場合」をも包含する。ところが原告は前記交通事故を犯すときまで過去一年以内に免許の効力の停止を受けたことは一回もないのであるから、原告が右交通事故を惹起したことだけでは、道路交通法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号ロの場合に該当しない。したがつて被告が右事故をとらえて右法条に該当するとなし、これを適用して運転免許を取消したのは違法である。

(二)、更に前記取消処分は、適式な決定書が存在しないから違法である。

一般に運転免許の取消処分をするには処分決定書を作成しなければならないが、本件取消処分には決定書が作成されていない。もつとも、決定書らしき書面(甲第二号証の二)は存在するが、右書面には決定年月日、決定者の署名押印を欠くから適式な決定書とはいえない。したがつて、決定書を作成せずしてなされた本件取消処分は違法である。

四、以上の次第で本件運転免許取消処分は無効であるところ、原告は右運転免許を取消されたため自動車運転者として従事することができず、生活に困窮している。

よつて、本件運転免許取消処分が無効であることの確認を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ、

立証として、甲第一号証、第二号証の一、二を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一、および二、の事実は認める。

二、請求原因三、(一)のうち、原告が昭和三六年二月二一日午前一一時五〇分頃原告主張の大型貨物自動車(茨一す―四二一三号)を運転し、原告主張の進行状態で茨城県結城郡千代川村大字羽子四四番地先路上に差しかかつた際、たまたま平塚てるが自転車に乗り右手農道(巾員約二米)から県道に進出して来るのを右斜前方約一一米の地点に発見しながら、右平塚の方で一時停車するものと軽信して同女の動静に注視せず減速、徐行等の避譲措置を講ずることなく漫然同一速度で右側通行を継続したため、原告の自動車の右側後輪フエンダーを平塚の自転車のハンドルに衝突させて同女を路上に転倒させ原告主張の傷害を与え、その結果翌二二日同女を死亡させるに至つたこと、原告の右行為が道路交通法第一七条の通行区分の規定に違反するものであることおよび原告が右事故に至るまで過去一年以内に一度も運転免許の効力の停止を受けたことがないことは認めるが、その余の主張は争う。

原告の右行為は、同法第一七条の通行区分の規定に違反するとともに、同法第七〇条の安全運転の義務に違反する点において同法第一一九条第一項第九号の違法行為として同法施行令第三八条第一号ハの違反行為に、したがつて同条第二号ロの免許の取消基準に該当する。したがつて、道路交通法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号ロに該当する事故を起したことはないとする原告の主張は理由がない。

また、原告は本件事故に至るまで過去一年以内に免許の効力の停止を受けたことがないのに前記法条を適用して免許を取消したのは違法であると主張するけれども、道路交通法施行令第三八条第二号ロにいう「前号ハに掲げる違反行為」とは同条第一号ハの後段に規定する「法第一一九条第一項第一号、第二号、第五号、第九号又は第一五号の違反行為」だけを指すのであつて、同条第一号ハの前段における「その者が過去一年以内に一回以上免許の効力の停止を受けた」という行政処分の前歴を含むものでないことは、文理上明らかである。したがつて原告は右免許の効力の停止処分を受けた前歴はないけれども、原告の本件違反行為は同条第二号ロに該当すること明らかであるから、被告が前記法条を適用してなした本件取消処分は適法であつて、これを違法とすべき理由は全く存しない。

三、請求原因三の(二)の主張は争う。

(一)、およそ、被告公安委員会の権限に属する行政処分は、委員会の議決により内部的に意思決定がなされ、これに基づく表示行為よにつて処分が完結し、その効果を発生するのであるが、委員会の議決につき決定書というような書面を作成し、決定者がこれに署名捺印をしなければならないという規定は存しない。運転免許の取消処分についても同様であつて、道路交通法施行規則第三〇条において「公安委員会は免許を取り消し又は免許の効力を停止したときは当該処分を受けた者に別記様式第一九の通知書により通知するものとする」と規定するほかは、委員会の右取消処分の議決につき決定書の作成を必要としていない。これを喩えれば、被告委員会の審議議決は、合議裁判所における評議評決に比すべく、裁判所の評議評決の結果はこれを判決、決定の裁判書に作成することが要求されるが、委員会の審議議決の結果はこれを書面に作成することを必要とする規定はないからこれが書面を作成することはなく、右議決の結果を通知書によつて被処分者に表示すれば足りるのである。そして本件免許取消処分については、被告委員会の議決に基づき法定の様式による通知書を被処分者たる原告に交付したのであり、右通知書到達の事実は原告の既に自認するところであるから、本件免許取消処分はこれをもつて完全にその効力を生じている。

原告の主張は、被告委員会の議決をもつて恰も裁判機関のなす判断または意思表示の一形式である訴訟法上の決定と同一視せんとするものであつて、その主張は失当である。

また、原告が決定書として主張する書面(甲第二号証の二)は、被告委員会のなした本件取消処分の決定書ではない。被告委員会の庶務は警察法第四四条により県警察本部において処理しているのであるが、原告代理人から本件取消処分の決定謄本下附申請が提出されたところ、同庁職員は右取消処分の決定書なるものの趣旨が理解できなかつたので、被告委員会が原告に対する処分を審議するに当り、原告を聴聞するため使用した聴聞資料に基づいて、右の書面(甲第二号証の二)を作成交付したものであつて、右書面は原告のいう決定書ではない。また決定書の謄本でもない。

しかし、被告委員会は、行政処分の議決をなすにつき決定書と称する書面は作成しないけれども、県警察本部の主務課の主任者が起案し順次上司を経て提出された原議につき議決をなし、これに関与した委員が原議書に決裁印を押捺し、その後主務課においてこれに基づき処分台帳に処分月日等を登載する取扱となつている。そして本件免許取消処分についても右と同様の手続が践まれ、被告委員会の議決がなされ、これに基づき委員会の命を受けた職員が法定の様式による取消通知書を作成しこれを原告に交付した。したがつて本件免許取消処分はその意思決定から表示行為に至るまで何ら欠くるところはない。

(二)、仮りに原告の主張が法律の特別の規定を俟たずとも、一般の法理において被告委員会のなす行政処分については決定書の作成を必要とする趣旨であるとしても、かかる法理が存在すると認めることはできない。

一般に行政の法制上、「議決」は「決定」と区別され、議決は当該団体若しくは行政機関の意思決定をなす方式であるのに対し、決定は具体的事件につき何が法であるかを確認し宣言するところの一種の審判作用であるとせられていて、法律上の性質を異にする。決定の場合に要式行為として決定書の作成を必要とするからといつて、意思決定である議決についても決定書の作成が必要であるとの結論にはならない。

しかして、公安委員会が県知事の所轄のもとに県の執行機関たる性格を有するものであることは、警察法第三八条第一項および地方自治法第一八〇条の五第二項に明記せられているところであり、しかもそれが審判機関であることについては何ら法的根拠の認むべきものがないから、公安委員会がその権限に属する事項についてなすところの行政処分は、すべて同委員会の意思表示たる性質を有し、審判作用の如き判断の表示でないことは明らかである。

そして被告委員会のなした本件免許取消処分が法律上の性質において決定でないことは言うまでもないから、行政一般の法理から論じても決定書の作成を必要としない。原告の主張は、意思決定の場合と行政行為の一種としての決定とを混同したものであり、失当である。

四、被告は道路交通法第一〇三条および第一〇四条の規定により同年四月二七日原告に対し公開の聴聞を行つた後即日行政処分について審議し、原告の前記違反行為は同法第七〇条の安全運転の義務に違反するもの、すなわち同法第一一九条第一項第九号の違反行為として同法施行令第三八条第二号ロの場合に該当すると認め、同号ロの基準に基づき、その過失と結果がいずれも重い点を考慮して、運転免許を取消すを相当とする旨議決し、同年五月三日同法施行規則第三〇条所定の取消通知書を原告に交付したものである。以上のとおり被告のなした本件運転免許取消処分にはその内容においても手続上も何の瑕疵も存しない。

と述べ、

立証として、乙第一ないし第一二号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、原告が昭和三二年七月頃被告茨城県公安委員会から旧大型自動車第一種運転免許(免許番号茨城県第二九八七八号)を受けそれ以来今日まで自動車運転の業務に従事していたこと、被告が昭和三六年四月二七日原告に対し原告が道路交通法第一〇三条第二項第二号同法施行令第三八条第二号ロに該当する者になつたとして同法条を適用し右運転免許の取消処分をなし、その取消通知書が同年五月三日原告に交付されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで以下本件免許取消処分に原告主張のような瑕疵があるか否かにつき順次判断する。

(一)、原告は、道路交通法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号ロにいう運転免許の取消基準に該当する違反行為をなしたことはないから、被告が右法条を適用して免許を取消したのは違法であると主張する。

まず、原告が昭和三六年二月二一日午前一一時五〇分頃大型貨物自動車(茨一す―四二一三号)を運転し、茨城県結城郡石下町方面から下妻市方面に向け県道(巾員七、四米)の右側を時速約三七粁の速度で進行し、同郡千代川村大字羽子四四番地先路上に差しかかつた際、たまたま右手小路(巾員約二米)から自転車に乗り県道に向つて進出して来る平塚てる(当時四四年)を右斜前方約一一米の地点に発見したが、原告は右平塚において一時停車してくれるものと軽信し、平塚の動静に注視することもなく、また減速その他避譲の措置を講ずることなく漫然同一速度で右側通行を継続したため、自動車の右側後輪フエンダーを平塚の自転車のハンドルに衝突させ同女を自転車もろとも路上にはね飛ばして肝臓破裂等の傷害を与え、その結果翌二二日同女を死亡させるに至つた事実は当事者間に争いがないところ、原告は原告が右事故において自動車等の運転に関し道路交通法の規定に違反したのは同法第一七条の通行区分の規定に違反した点だけであつて同法第七〇条およびその他の規定に違反したことはないから、右事故は同法施行令第三八条第一号ハにいう「法第一一九条第一項第一号、第二号、第五号、第九号又は第一五号の違反行為」のいずれにも該当せず、したがつて同条第二号ロの場合に該当しない旨主張する。

しかしながら、道路交通法第七〇条の安全運転の義務は、車輛等の運転者は、当該車輛等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作するのはもとより、交差点、踏切、曲り角の存否、見とおしの可否、道路の広狭等の道路の状況、交通量の繁閑および交通の質等の交通の状況、当該車輛の種類、大きさ、積載の状況等の車輛の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないことをいうのである。

しかして、成立に争いのない乙第四号証(実況見分調書)によると、同郡千代川村大字羽子四四番地先に所在する前記巾員二米の小路は県道に直交し丁字交差をなしていて、右交差の角に県道に沿つて約一、七五米のサンゴ樹の生垣に囲まれた民家があるため、右小路の状況は十分見とおせない状況にあつたことが認められ、そして前示争いのない事実によると、原告は前示大型貨物自動車を運転して右小路の手前に差しかかつた際右小路から自転車に乗り県道上に進出して来る平塚てるを右斜前方約一一米の地点に発見したのであるから、かような道路、交通の状況下においては原告は減速徐行し、あるいは進路を道路左側に転じ法規どおり左側通行をする等他人に危害を及ぼさない速度と方法とで運転をなすべき義務があつたにかかわらず、原告は右平塚において一時停車してくれるものと軽信して右相当の運転方法をとることなく漫然約三七粁の従前の速度をもつて道路の右側を進行したものでしかも成立に争いのない乙第五号証(供述調書)によると、原告は道路右端から僅かに約八〇糎の余地を残したのみで右側通行を継続した事実が認められるのであるから、叙上の事実経過によつて本件事故を惹起するに至つた原告の行為は同法第七〇条にいわゆる安全運転の義務に違背したものと認めるのが相当である。

そうすると、原告の前記行為は道路交通法施行令第三八条第一号ハの「法第一一九条第一項第九号」に、したがつて同条第二号ロに該当するというべく、被告が同法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号ロを適用して原告の免許を取消したことには何も瑕疵は存しない。原告の右主張は理由がない。

次に、原告は、仮りに原告の前記行為が、道路交通法第七〇条に違反し、同法施行令第三八条第一号ハの「法第一一九条第一項第九号」に該当するとしても、同法施行令第三八条第二号ロにいう「前号ハに掲げる違反行為」は、同条第一号ハの前段における「その者が過去一年以内に一回以上免許の効力の停止を受けた者である場合」を包含するものであるところ、原告は本件事故を犯すまで過去一年以内に一回も免許の効力の停止を受けたことがないから、右事故だけでは同条第二号ロに定める場合に該当しない旨主張する。

しかし、同法施行令第三八条第二号ロにいう「前号ハに掲げる違反行為」は、同条第一号ハの後段における「同法第一一九条第一項第一号、第二号、第五号、第九号又は第一五号の違反行為」のみを指し、同号前段の「その者が過去一年以内に免許の効力の停止を受けた者である場合」という行政処分を受けた前歴を含まないと解するのが相当である。

けだし違反行為なる文言の本来の概念、その他同法施行令第三八条が免許の取消および停止の基準要素として、行政処分の前歴の存否、違反行為の態様、事故の結果の死傷の有無を区別対比して掲げている規定の仕方等文理解釈上右のように解するのが相当だからである。

したがつて、原告が本件事故を惹起するに至るまで過去一年以内に免許の効力の停止を受けたことが一回もないことは当事者間に争いがないけれども、原告が右事故を惹起するにおいて道路交通法第七〇条に違反し、同法施行令第三八条第一号ハの「法第一一九条第一項第九号」に該当するものであることは前段に述べたとおりであるから、原告の前記行為は同条第二号ロに定める場合に該当するものというべく、被告が道路交通法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号ロを適用して原告の免許を取消したについては、何も適用法条を誤つたという点の瑕疵は存しない。原告の右の点に関する主張は理由がない。

(二)、原告は本来行政庁のなす行政処分には書面の作成を必要とするところ、本件取消処分には決定書が作成されていないから、違法である旨主張する。

なる程一般に行政処分は、一方的に相手方である被処分者を拘束する力を有するものであるから、その処分が正当権限に基づくものであることを明らかにし、その内容を明確に認識し得られる手段を講じておくことが要求される。そこで、行政処分については、しばしば書面によつてその内容を明らかにすることが求められ、また正当な権限のある行政庁による行為であることを明示するためその書面に行政庁(処分者)の署名捺印を要するものとされている。訴願法第一四条、地方自治法第二五七条、破壊活動防止法第二三条、土地収用法第六六条、行政代執行法第三条等の規定がその例である。そして法律の明文に規定のない場合でもその処分の性質上書面によることを要すると解すべき場合もないではない。

しかしながら行政処分は右の例外の場合を除き一般に不要式行為と解されており、必ずしも書面その他一定の形式によることを要するものではない。

しかして、都道府県公安委員会がする運転免許の取消ないし停止の行政処分に関しては、道路交通法その他の関係法令においても、右公安委員会がする処分の意思決定につき何らかの形式の書面によるべき旨の規定は存せず、たゞ当該処分を被処分者に表示するにつき道路交通法施行規則第三〇条において、公安委員会が右取消ないし停止処分をしたときは該処分を被処分者に対し同規則の別記様式第一九の通知書により通知すべき旨規定するだけである。そして右規定を措いては条理上からいつても、右処分の法的性質の点から考えても、運転免許の取消ないし停止処分(就中その意思決定をするについて)をするについて必ず書面によらなければならないと解すべき理由に乏しい。

したがつて、被告がなした本件免許取消処分につき原告が主張するような決定書を作成していないことは被告も争わないところであるが、書面が作成されていないからといつて本件取消処分が違法を来たすことにはならない。

しかも成立に争いのない乙第一号証(原議書)および弁論の全趣旨によると、被告公安委員会が運転免許の取消ないし停止処分をなすには、被告公安委員会の庶務を担当する茨城県警察本部の主務者において起案した原議につき順次上司の決裁を経た上被告公安委員会の委員が最終的に審議決定をなし、原議書に決裁印を押捺する取扱をなすことになつており、本件免許取消処分についても右同様の手続が履践され被告公安委員会の委員が審議決定をなし原議書に決裁印を押捺している事実が認められ、右原議書によれば本件取消処分決定の理由、その処分決定の内容およびその処分決定が処分庁の正当権限に基づきなされたものであることを一応内部的に明らかになし得るし、更に被告が道路交通法施行規則第三〇条所定の様式による通知書によつて本件免許取消処分を通知し、その通知が昭和三六年五月三日原告に交付された事実は原告の自認するところであるから、被告のなした本件免許取消処分には原告主張のような瑕疵は存しない。原告の右の点の主張も理由がない。

三、以上のとおり原告の主張はいずれも理由がないから原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田邦康 諸富吉嗣 宇井正一)

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